演技とは何か
演技とは、登場人物を観客が信じられるように見せることです。俳優は本物の人ですが、状況は想像の世界です。それでも、気持ちと行動は本当らしく見えなければなりません。
俳優は、舞台、映画、ラジオ、路上パフォーマンスなどで活躍します。どれも使う道具は同じで、想像力、体、声、そして共演者です。
役をつくる
与えられた状況
場面の事実のことです。登場人物がだれか、場面がどこで、いつ起こるか、直前に何があったかです。探偵になったつもりで台本を読み、書き出しましょう。
目的と障害
目的とは、その場面で役がほしいものです(「彼女にゆるしてほしい」)。障害とは、それをじゃまするものです。はっきりした「ほしいもの」を演じると、俳優に力と方向が生まれます。
サブテキスト
サブテキストとは、言葉の下にかくれた意味です。「いい靴だね」は、本当のほめ言葉にも、からかいにもなります。俳優はどちらかを決めて、それを見せます。
多くの先生が、ロシアの演出家コンスタンチン・スタニスラフスキーの考えを使います。たとえば「もしも」の魔法です。私がこの状況にいたら、どうする?
体:姿勢、身ぶり、高さ、立場
姿勢とは、体のかまえ方です。身ぶりとは、意味を伝える動きです(指さし、開いた手のひらなど)。表情は気持ちを見せます。
高さ(レベル)とは、舞台の上での高さのことです。立つ、すわる、ひざをつく、横になるなどがあります。高いところにいる役は、強く見えることが多いです。
立場(ステータス)とは、役がどれだけ力をもっているように見えるかです。高い立場は、動かず、まっすぐで、目をしっかり合わせます。低い立場は、そわそわして、下を向き、小さくなります。立場は場面の途中で変わることがあり、それがとてもおもしろいのです。
プロクセミクス(距離)とは、登場人物どうしの間の距離です。近いと愛情にも脅しにも見え、遠いと恐れや冷たさに見えます。
声:大きさ、速さ、高さ、間
- 大きさ(声の投げかけ):どならずに、いちばん後ろの席まで届く大きさにします。おなかから息を使います。
- 速さ:速いとあわてや興奮、ゆっくりだと悲しみや重みを表せます。
- 高さと抑揚:高い、低い、上がる、下がる。語尾が上がると、ふつうの文が質問に聞こえます。
- 強調:強く言う言葉を変えると意味が変わります。「私は取っていない」と「私は取っていない」を比べてみましょう。
- 発音:音をはっきり出して、すべての言葉が聞こえるようにします。
行動、反応、タイミング
舞台のすべては、行動と反応の連続です。ひとりが何かをすると、もうひとりはそれに心を動かされて答えます。よい演技のほとんどは、よい聞き方です。自分が考えていた通りではなく、相手が実際にしたことに反応しましょう。
タイミングとは、いつ言うか、いつ動くかです。間は、その瞬間を観客にしっかり届け、緊張感(次に何が起こるかを観客が待つ気持ち)を高めます。笑いもタイミングしだいです。短い間のすぐあとに、ジョークが決まります。
俳優は、空間、小道具、リズム、しずけさ、そして対比(速い/遅い、大きい/小さい)など、たくさんの要素を組み合わせます。
けいこ、訓練、目的をもつ演劇
ウォームアップは、体と声の準備です(ストレッチ、呼吸、早口ことば)。即興とは、その場で場面をつくることで、すばやく聞く力がきたえられます。ホットシーティングは、俳優が役になりきって質問に答えます。フリーズフレーム(タブロー)は、大切な瞬間を一枚の止まった絵として見せます。
けいこでは、俳優がいろいろな選択を試し、演出家の指摘を聞き、場面がはっきりするまでくり返します。そのあと、俳優は何がうまくいったか、何を変えるかをふり返ります。
演劇は、いじめ、ごみ、公平さなどの社会問題を考えるためにも使えます。フォーラム演劇では、観客が場面を止めて、もっとよい行動を提案できます。路上劇は、人がいる場所へ劇を持っていきます。
やってみよう:ひとつのせりふを5通りで
「もう帰るね。」というせりふを、うれしい、怒り、こわい、たいくつ、ひそかに悲しい、の5通りで言ってみましょう。1回目は声だけ、2回目は体だけ変えて、そのあと両方を使います。スマホで自分を録画して、音を消して見てみましょう。それでも気持ちが伝わりますか? そのあと、最後の3Dステップのスライダーも試してみましょう。
重要な公式と用語
- 与えられた状況:だれが、どこで、いつ、直前に何があったか
- 目的:役がほしいもの。障害:それをじゃまするもの
- サブテキスト:言葉の下にかくれた意味
- 体の道具:姿勢、身ぶり、表情、高さ、距離、立場
- 声の道具:大きさ、速さ、高さ、間、強調、発音
- 行動 → 反応:聞いてから答える
- 間 = 緊張感。タイミングが瞬間の伝わり方を決める
例題
1. 台本:ひとりの生徒が授業に遅刻した。与えられた状況と目的を書きましょう。
だれが:中学3年生の生徒。どこで・いつ:教室の入り口、午前9時15分、テスト中。直前に何があったか:バスに乗り遅れた。目的:「先生にしかられずにテストを受けさせてほしい。」障害:きびしい先生。
2. 同じ場面で、高い立場と低い立場を見せましょう。店主とお客さんです。
高い立場の店主:カウンターの後ろで動かず立ち、ゆっくり話し、目をしっかり合わせる。低い立場のお客さん:体重をあちこちに移し、床を見て、早口で小さな声で話す。途中で立場を入れかえると、お客さんが勇気を出したように見える。
3. 「あなたが私のお弁当を食べた」というせりふは、強調でどう変わりますか?
「あなたが私のお弁当を食べた」=だれがやったのかへの驚き。「あなたが私のお弁当を食べた」(「食べた」を強く)=動かしたのではなく食べたことへのショック。「あなたが私の(お弁当)を食べた」(「私の」を強く)=それは私のもので、あなたのではない。同じ言葉で、3つの意味になる。
4. 社会問題を扱う短い場面を考えましょう。テーマはプラスチックごみです。
フリーズフレーム1:川にプラスチックを捨てる家族。短い場面:魚(俳優)がせきこんで反応する。間。フォーラムの場面:観客が、家族ができることを提案する。最後のフリーズフレーム:きれいになった川。高さを使い(魚は低く、家族は高く)、魚のせりふの前に長い間をとる。
よくある間違い
- 自分の出番を待つだけで、聞いていない。相手が実際にしたことに反応しましょう。
- 観客に背中を向けたり、声が小さすぎたりする。体を開いて、声を届けましょう。
- はっきりした目的(「彼に残ってほしい」)ではなく、ぼんやりした気持ち(「悲しい」)を演じてしまう。
- せりふをすべて急いで言う。間がないと、観客は気持ちを感じる時間がありません。